pm 9:31

髪の毛を切りました。髪の毛を切るたびに、大学一年生の長い髪でいまよりもっと暗くてゆがんでたわたしを思い出すので、彼女に向けた、あるいは彼女との対話のような短歌を詠みました。



忘れてた世界の扉は開かない いまのわたしはもう開けない

「こんなにも綺麗に伸ばしているのにね」「もう邪魔だから、切るしかないの」

夢の中、いつかのわたしが泣いていた ここは孤独でみんな敵だと

泣く過去のわたしにそっとささやいた(さみしいときは笑うしかない)

美しい宝石のなかに描かれた 理想の世界 春は絶望

いらだった目をした過去のわたしへとかける言葉は「笑ってるかい?」

「……どちらさま?」「三年経ったあなたです 」「……いまは楽しい? 」「すごく楽しい!」

この影は今日もひとりで生きている 長い髪の毛持て余してる

自我のない過去のわたしに問いかける「あなたはなにを求めているの?」

自我のない過去のわたしが問うてくる「あなたはなにを諦めてるの?」

このままで生き続けたらまずいよ、と気づけてよかった、ねえ、そうでしょう?

長い髪、重い前髪、好きだけど 似合わないからもうやめようね

誰ひとり味方のいない場所だけど 自分のペースがあればいけるよ

「……サークルは?」「やめた!」「なんでさ」「にんげんがたくさんいると生きていけない!」

「スカートは?」「無理」「お化粧は?」「わかんない」「だいじょぶ、全部ちゃんとするから」

「恋愛は?」「……」「意外なことにするんだよ」「……」「『すき』ってとってもきもちがいいよ」

「ともだちは?」「うーん」「いないの」「むずかしい」「やっぱりわたしひとりぼっちか」

「勉強は」「ぎりぎりなんとかやってます!」「朝は」「まったく起きられません!」

「酒タバコ」「両方!」「まじか」「がっつりよ、おかげで結構楽しんでるよ」

「あと趣味は?」「劇団四季と宝塚、それとピアスに食べることかな」

「インダストリアルは開けた?」「開けちゃった! だけど右なの、左無理って」

「振り袖は?」「成人式は行ってない、だけどお写真撮ってもらった!」

「高校の友達とかは」「……うん」「うんじゃなくてさ」「……なんだろ、もういいやって」

「ゼミとかは」「ちゃんとしたとこ選んだよ!」「大丈夫なの」「まじめキャラだよ!」

「まじめキャラ?」「……いつも通りにやってます……」「ふうん、よかった、楽しいんでしょ」

「将来は」「真っ暗ざんす!」「やっぱりかー」「一応、一応仮で見てるよ!」

「いままでで、一番楽しかったのは?」「うーん、あんまり記憶がないや」

「えっ、まじで、毎日楽しいんじゃないの」「楽しいけどね、ぼんやりしてる!」

「会話なくおうちに帰ることはある?」「わりと今でも普通にあるよ」